★『フェスティバル2013 全国高校演劇研究大会』(いわき市)
3月23日・24日に高校生たちの演劇を見に行って来ました。
いくつかの作品を見させてもらったのですが、お目当ては開催県の枠で、最後に上演された福島県立大沼高等学校の『シュレーディンガーの猫~Our Last Question~』でした。
実はこのフェスティバルは地方ブロックの予選で最優秀を取れずに、夏の全国大会へ行けなかった作品の内から推薦されて、上演が行われるものなのだそうです。
会津美里町の大沼高校演劇部がいわば全国大会への道を絶たれた時の「講評や批評」について、「東北でも震災被害が風化しつつある」と報じた新聞記事に、ウシトラ旅団の数人が怒りまくったのでした。
むろん、その怒りは、この作品が一等賞を取れなかったという結果についてではなく、生徒たちが福島の問題に正面から立ち向かった演劇に対して、評価する側が「正面から」向きあおうとしなかったらしいことについてでありました。
避難者の二人。活発で芯の強い絵里(黒ジャージ)は自分を支える好きな歌を、みんなに名前も覚えてもらっていない孤独な弥生(青)に聞かせる |
事の結果を報じた福島民報はこう書いていました。
『震災と原発事故を題材にした大沼高(会津美里町)の演劇に対し、他校から「重いテーマを重くやられた感じ、疲れる」「(震災を)見せ物にしている」などの講評が寄せられた。審査員の一人も「疲れた」と感想を漏らしたという。結果は本紙既報の通り最優秀でも優秀でもなく、優良賞だった。
審査がある以上、優劣がつくのは当然で、結果についてとやかく言うつもりはない。残念なのは、被災地の視点で問題に真正面から取り組んだ姿勢に対し、冷ややかな見方があった点だ。講評者名は伏せられているが、関係者は「被災しなかった地域の生徒の意見ではないか」と推測している。思いを共有してくれていると信じていた東北での否定的な反応に、部員は落胆している。心を占めているのは悔しさより悲しみだろう』
旅団長は、怒っておりませんでした。
嫉妬で目が濁る、んな連中はいるだろうし、風化なんていえば「絆」やらのごたくで塗りたくった支援や心持ちは、すぐに風化するに決まっている。
そんなことより「共感の回路をどう作るか」を考えねばなりませぬ。
というわけで、例のごとく喚いてしまうもんね。
「この演劇、東京でやっちまおうぜ! 評価はそこで見てくれる人にやってもらえばいいじゃん」
「かわいそう」だから原発被災者を演劇にしようとするのか、自問して聡美(左端)が出す結論は |
★お盆にやるべ!
ソメビン、走り回り、あっという間にプロデュースをしてくれる人を見つけ出し、あっという間に本多劇場系列の「楽園」で、お盆興行の日程が押さえられたのでありました。
顧問の佐藤先生に連絡を取り、「やろう!」という話になったのでした。
23日には、ウシトラはプロデューサーのHさんと一緒にいわきの一夜。
どんなふうにやりたいか、佐藤先生と話し込みました。
「この子供たちにしかできない演劇です。ありのままの子供たちの演劇として表現するようにしたい。本多劇場なんて、大変な経験になるし、ぜひやりたい」
そんなふうに先生はおっしゃるのでした。
24日には、鶴ヶ島広報隊アライ隊員が聴覚障がい者の運動に取り組んでいる人を引き連れて、上演場「アリオス」にカメラを引っさげて登場したのでした。
(この演劇を聴覚障がい者にもどうにかして観てもらう工夫ができないか、と考えているのです)。
★すごい! まいった! やるぞ!
「拙い作品」と謙遜していた先生の言葉は、とんでもないものでした。
もともと、富岡町から避難してきた女生徒が大沼高校の演劇部に入部したことが、この劇の誕生につながったといいます。
避難者の生徒、それを受け入れた学校の生徒、それぞれの心が深化していく過程が見事に描かれているのです。
出演する8人の生徒さんたちの見事なキャラクター。
たしかに先生が言うように、「あの子たちにしかできない劇」なのでしょうが、きっと現実に起きている事象を真正面から見つめています。
そこには、避難してきた生徒の「同情はいらない」や「怒りじゃない、悔しいんだ」の言葉の意味や、それぞれに違った思いを抱えて、それでも考え続けている受け入れた側の生徒たち、メディアの上調子などが浮き彫りにされていきます。
350人の小さな会津の高校の生徒と顧問が作った劇は、まっすぐに私たちを打ってきます。
旅団長は、終わった途端に二階席にいたHさんに向かって、親指を突き上げていました。
すこし後ろで見ていたソメビンは「参った、やられた。もう涙がとまらない」。
実際、旅団長はラストの5分間、自分の口を両手で抑えこんで、嗚咽が挙がるのをかろうじて我慢していたのでした。
演劇を見て、こんなふうになったのは初めてでした。
絵里が転校してきてダンス部はメディアの寵児。だが、ずっとダンス部を支えてきた陽佳(右端)の様子が変。学校のリーダーである陽佳の心のうちは……。 |
畳み掛けるように、一人でも生きていくという意志、仲間として生きるというシンプルで根底的な「勇気」が、舞台上に立ち上がってくるラストをたくさんの人達と共有したい。
大沼高校の演劇部のみなさんは、わたしたちウシトラ旅団がやろうとしてきたことを実現しようとする仲間です。
上演直後、大沼高校演劇部員の真っ直ぐな目にたじろぐ、さっきまで泣きべそをかいていたのソメビン |
どうしても東京でこの作品をやりたい、必ずやる! と思いを強くしました。
お盆の数日間のぶち抜き公演です。
みなさまのご協力をお願い致します。